2021 年度 Web×IoT メイカーズチャレンジ PLUS in 岡山 開催報告
学生や初学者エンジニアを対象とした IoT システム開発のスキルアップイベント「Web×IoT メイカーズチャレンジ PLUS in 岡山」が 2021 年 12 月から 2022 年 2 月にかけて岡山県で開催された。新型コロナウイルス感染拡大により、岡山県内にまん延防止等重点措置が発令されたため、2022 年 1 月に岡山大学での開催が予定されていたハッカソンは、2 月 27 日にオンラインでの成果発表会のみに変更しての実施なった。
開催概要
主催 | 中国情報通信懇談会 Web×IoT メイカーズチャレンジ PLUS 岡山運営委員会 |
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協賛 | 株式会社 システムズナカシマ、株式会社 両備システムズ、株式会社英田エンジニアリング、株式会社システムタイズ、株式会社システムエンタープライズ |
協力 | 岡山県、岡山大学、岡山県立大学、岡山理科大学、公益財団法人 岡山県産業振興財団、一般社団法人 システムエンジニアリング岡山、岡山ネットワーク株式会社、コニカミノルタ株式会社、岡山大学 DS 部、中国地域 ICT 産学官連携フォーラム、CHIRIMEN Open Hardware、Web×IoT メイカーズチャレンジ PLUS 中央実行委員会 |
後援 | 総務省中国総合通信局、株式会社 中国銀行、おかやま IoT 推進ラボ、Beyond 5G 新経営戦略センター |
ハッカソン開催日程 | 2022 年 2 月 27 日 (日) ※ハッカソンに先立ち、ハンズオン講習会を 2021 年 12 月 11 日 (土) – 12 日 (日) に実施。 |
会場 | ハッカソン成果発表会はオンライン開催 (講習会のみ岡山大学 津島キャンパス 自然科学研究科棟にて実施) |
イベントの詳細 (Connpass サイトへ移動します)
イベントレポート
報告者:岡山大学 佐藤陵一
昨年に引き続き、「Web×IoT メイカーズチャレンジ PLUS in 岡山」が開催された。今年は新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴い、ハッカソンの開催日時が延期されたり、成果発表会がオンライン開催になったりと、昨年以上に厳しい状況でのイベントとなった。
イベント開催にあたり、学生・社会人問わず様々な方が参加し、中には昨年度に引き続いての参加者も見られた。計 26 名の参加者は、6 チームに分かれて、各チームで岡山をより良くするためにアイデアを出し合い、2 か月間の製作期間を経て発表会に臨んだ。ハッカソンの成果発表会はオンラインでの開催となったが、どのチームもアイデアあふれる作品を作成し、デモを見せながらの発表はとても見ごたえのあるものだった。
イベントを通して、日程変更やオンラインでの発表会といったトラブルに見舞われるものとなったが、参加者達はそれに臆することなく、魅力的な作品を製作していた。そのため、運営含め参加者全員が満足のいくイベントとなった。
開催日程
開催日程は、以下の通り。感染症の影響により、当初のイベント期間よりも 1 か月程度延長する形となった。また、ハッカソンの発表会についてもオンラインでの開催となった。
日程 | 内容 | 開催場所 |
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2021 年 12 月 11 日 (土) | 座学講習 ハンズオン講習 |
岡山大学 津島キャンパス 自然科学研究科棟 2 階大会議室 |
2021 年 12 月 12 日 (日) | ハンズオン講習 アイデアソン |
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2022 年 1 月 22 日 (土) | ハッカソン進捗報告会 | オンライン |
※感染症の影響により延期 |
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※感染症の影響により延期 |
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2022 年 2 月 27 日 (日) | ハッカソン成果発表会 | オンライン |
座学講習・ハンズオン講習・アイデアソン
座学講習・ハンズオン講習会・アイデアソンは、2021 年 12 月 11 日 (土)、12 日 (日) に岡山大学津島キャンパス自然科学研究科棟 2 階の大講義室にて行われた。オフライン開催にあたり、感染症拡大防止のため、参加者に検温をしてもらったのちに体調管理シートへの記載に加え、参加者同士の距離を保ちつつ、使用したものをアルコール消毒するなどといった対策を行いながらイベントを実施した。
イベント 1 日目は、主催者である岡山大学の野上保之教授よりご挨拶いただいたのち、座学講習を行い、午後よりハンズオン講習を行った。
座学講習では、「標準技術と OSS の基礎」について学習院大学および慶応義塾大学の深見嘉明氏より教えていただき、「電波とワイヤレス通信の基礎」についてビデオ教材にて学んだ。
1 日目の午後からは「Raspberry Pi Zero 版 CHIRIMEN」を用いたハンズオン講習を一般社団法人 WebDINO Japan の渡邉浩平氏に解説いただきながら、参加者が各自のキットを用いて手を動かしながら学んだ。ハンズオン講習の後半になってくると、LED の点灯方法について工夫する受講生や、キット以外のセンサーを用いて動かしてみる受講生などがおり、積極的に学ぶ姿勢が見られた。
イベント 2 日目の前半は、前日に引き続きハンズオン講習を行った。2 日目になると、様々なセンサーや LED などを組み合わせていたり、LED の光り方についてプログラムを工夫してみたりといったことを行っており、受講者のアイデアや好奇心がよく見られるようになった。
2 日目の午後には、ハッカソンのチーム分けが発表され、各チームでアイデアを出し合うアイデアソンが開催された。今回のハッカソンでは「岡山を楽しくする IoT デバイス」がテーマとなり、各チームでまずは、岡山と言えばというキーワードや、岡山をより良くするための案を出し合った。最後には各チームの取り組むテーマを発表したが、どのチームも岡山での問題点や良いところに着目して明確な目標を立てていることが印象的だった。
ハッカソン進捗報告会
ハッカソン進捗報告会は、2022 年 1 月 22 日 (土) にオンライン会議 (Zoom) にて行われた。
報告会では、成果発表会に向けて各チームの進捗状況を確認し、参加者の不安なことや質問したいことを解消した。また、感染症拡大に伴い成果発表会が延期になる連絡についても、この報告会で行った。
成果発表会までの期間が 1 か月ほど延びるということもあり、延長されたことでチームごとにどのような作りこみを行うのかを発表してもらった。どのチームについても、とても前向きな発表をしており、1 か月後の成果発表会ではどのようなデモを見せてもらえるのかがとても楽しみになるような報告会となった。
報告会では主に以下の内容について、チームごとに報告を行った。
- どんな課題に取り組んでいるか、どんなものを作ろうとしているか (ハッカソン当日まで秘密にしたい部分は伏せていただいても OK。言える範囲で
- 準備期間中のメンバー間のコミュニケーションの状況
- 材料調達の状況
- チームメンバーの役割分担
- ハードウェア的な進捗
- ソフトウェア的な進捗
- 今、困っていることや今後の課題
チームによっては学生と社会人の方が混ざっているところもあるため、日程を合わせて作業をすることが難しいという意見も聞こえてきた。そのような中でも、集まらずにできることについて考えながら分担して取り組み、Slack をはじめとする SNS や Zoom といったオンライン会議ツールをうまく使用して製作をしているということをどのチームからも聞くことができた。
ハッカソン成果発表会
成果発表会は、2022 年 2 月 27 日 (日) にオンライン会議 (Zoom) にて行われた。
作品の審査は、以下 3 名の審査員にご担当いただいた。
- 五寳 匡郎 氏 (コニカミノルタ株式会社 技術戦略部 / Web×IoT メイカーズチャレンジ PLUS 中央実行委員会 委員)
- 戸田 晃 氏 (株式会社 両備システムズ ビジネス戦略本部 本部長補佐 兼 DX 事業推進室長)
- 瀧田 佐登子 氏 (一般社団法人 WebDINO Japan 代表理事 / Web×IoT メイカーズチャレンジ PLUS 中央実行委員会 副査)
今年度は感染症の拡大に伴いオンラインでの開催となったため、チームごとの成果物は、デモ動画の再生やデモの生配信等で発表された。発表会の日程変更によって、すべてのチームが発表できるか心配されたが、すべてのチームがクオリティ高いデモを発表しており、中には今すぐにでも実現してほしいようなアイデアも見ることができた。
それぞれのチームがどのような技術を用いて成果物を作っているのかを見ながら、自分のチームの作品に対して審査員の方に評価をいただくことができたため、参加者にとってもとても充実した発表会になった。また、それぞれのチームが岡山の課題に対して、どのようなアプローチで解決しようとしているのかを見ることができたため、運営側からしてもとても有意義な発表会になったと感じた。
各チームの成果物については後ほど詳しく取り上げるが、全体的にハードウェアの部分からソフトウェアの作りこみまでこなしており、とてもクオリティの高い成果物を作成していた。また、成果物だけではなく、岡山をはじめとする現代社会の課題に着目し、それに対してどのような製品で対応していくのかというアイデアがどのチームも光っていた。
発表会の様子として、チームメンバー同士が協力して発表しており、オンラインでの発表とはなったが、とても楽しそうな雰囲気が伝わってきた。また、審査員の方からの質問に対しても受け答えがスムーズであったため、作品に対する思い入れが伝わってきた。
審査の結果、最優秀賞は、岡山が発祥である点字ブロックの IoT 化に取り組んだ「Smart B.B.」を制作した E チームに決定した。また、特別賞として、機会学習の画像認識を使い川に流れてくる桃を検知するシステムで河川の氾濫時の活用も視野に入れた作品「どんぶらこせんさ」を制作した C チームが表彰された。
イベントを通して
今年度は 2 か月間にも及ぶイベントとなったため、参加者のモチベーションが不安視されていた。しかし、発表会での各チームの発表内容はとても作りこまれているものであり、参加者も運営側も非常に有意義なイベントとなった。また、今回はメンターの人が大きくかかわることがほとんどなく、各チームで必要事項を調べながらわからないことを積極的に質問する姿勢が見られた。
学生と社会人が混ざっているチームについてはアイデアと実装力の融合がみられたため、学生と社会人が交流するイベントの重要性を改めて実感した。しかし、イベント日時が変更されたことにより、特に社会人の方はイベント当日に都合がつかないという状態になってしまったことは課題であるといえる。今年度については、岡山県に出されたまん延防止の影響によって日程変更があったためやむを得ない対処だったが、今回のイベントの成果や課題は今後のイベント運営にあたって必要になってくるだろう。
最後になるが、イベント開催にあたり物品準備や搬送、環境構築などといったあらゆる面でサポートしていただいた一般社団法人 WebDINO Japan の関係者の方々、岡山大学の野上保之教授をはじめサポートいただいた TA の方々、開催にあたり出資いただいたスポンサーの方々、その他運営に携わっていただいた方々および参加者の方々に感謝を申し上げます。
参加チームおよび作品概要
Team A 酒吞童子
作品名:短時間駐輪リマインダー
岡山は自転車大国であり、放置自転車が問題となっているという点に着目した作品。特に、短時間の駐輪を許可する場所に長時間放置されている自転車がパトロール要員による人力で、現場での時間計測・監視がなされている現状に対して、これを可能な限り屋内作業での管理に切り替えるための IoT システムを考えた。駐輪したことを赤外線センサーで感知してタイマーを作動させ、一定時間に達すると、Wi-Fi 経由でモジュール 2 に信号が送られる。モジュール 2 は、情報を受け取ると Raspberry Pi を通じて空気弁を開けて風船を膨らませ、一定時間になると音声で警告を発するという仕組み。リマインダーは、外部スピーカーと、Wi-Fi を使ったマネージャーへの通知の 2 つに分かれており、駐輪場管理者と自転車の所有者の両方への通知を想定している。
Team B #とんこつWIN
作品名:ラーメン自転車
ラーメン生活をより身近に、便利にするためのデバイス。おいしいラーメン店を探し開拓する手段と、カロリーの心配の両方にコミットした作品である。自転車に GPS を取り付け、ラーメン店に自転車を停めるとその店の場所情報やレビューがスプレッドシートに送信される。その情報を解析し、ユーザは店の位置情報、来店者数、評価などをマップ上で閲覧できる。それによりラーメン店の開拓が可能となる。また、ラーメン店間を移動する際に自転車を漕いで消費したカロリーは、ラーメンの替え玉量に換算されユーザにラインで通知が送られるため、罪悪感に苛まれることなくラーメン生活に入り浸ることができる。
Team C 桃太郎を絶対誕生させたい党
作品名:どんぶらこせんさ 【特別賞受賞作品】
岡山といえば桃太郎。おばあさんがたまたま川で洗濯をしていたときにたまた桃が流れてきたから桃太郎が誕生した。岡山の象徴である桃太郎の誕生を「まぐれ」ではなく確実に誕生させるために、桃が川を流れてきた時に検知して Slack で通知するシステムを考えた。川を流れる物体を距離センサーで認識し、認識したらカメラで物体を撮影。撮影した写真を Amazon Rekognition で桃が判定できる学習済みモデルで推論を実施。推論結果が「桃」だったら Slack に通知を飛ばす。通知を見たおばあさんが川に向かう。という処理手順。システムに画像検知を使用していることから、河川の氾濫防止といった防災に役立てる可能性があるユーモア溢れつつも現代社会の課題に着目している作品。
Team D 洗濯物乾かし隊
作品名:洗濯物守り隊
悪天候や、岡山ではお馴染みの野焼きの煙から洗濯物を守るため、周辺の環境や洗濯物の乾き具合に応じて洗濯物を自動的に取り込むシステム。照度、温度、湿度、気圧、煙、洗濯物の水分量をセンシングして洗濯物の状況を可視化しつつ、雨が降りそうなときは物干し金物に取り付けたモーターが洗濯物を回収、野焼きの煙が迫ってきたときは送風機で吹き飛ばす。さらに、洗濯物が乾いていれば雨が降っていなくても回収する。洗濯物の取り込みは、360° マイクロサーボモーターによる制御を行い、洗濯物の乾き具合を外出先から確認できるよう Web API を用いてリアルタイム表示を行った。また、洗濯物の「取り込み、干す」の部分も制御できるようにした。天気の状態を単に湿度や気圧、温度などの各要素で決めるのではなく、それぞれにしきい値を設けて、超えたら「雨の可能性あり」ということで加算していく点数アルゴリズムを取り入れた。これにより、少しでも誤認識を和らげることを図っている。
Team E BUMP OF CHIRIMEN
作品名:スマート点字ブロック Smart B.B. 【最優秀賞受賞作品】
岡山県発祥である点字ブロックを IoT 化することで、既存の点字ブロックにある問題点の解決を目指した作品。実際に弱視の方にインタビューを行い、得られた意見に基づいて制作を行った。本システムには主に 4 つの機能が搭載されている。1 つ目の機能は距離センサーによる障害物検知機能で、一定時間以上前方に物体がある場合、点字ブロックが警告音を発する。これにより放置自転車等の問題の解決が期待できる。2 つ目の機能は夜間の LED 点灯機能で、主に弱視の方の補助として搭載されている。3 つ目の機能は点字ブロック利用者のスマホを利用したガイド機能で、白杖に取り付けた IC タグを読み取り、音声での案内を行う。音声案内では スマートフォンの通知機能と文章読み上げアプリを利用している。4 つ目の機能は点字ブロックに内臓されたスピーカーによる情報発信機能で、災害情報やバスの案内など、点字ブロックを利用しない人にも役に立つアナウンスができる。また、これらの機能は Web アプリ上で各種データの管理や閲覧を行うことができるようになっている。
Team F 復活の F
作品名:岡山の観光地巡り
岡山には観光地が多くあり、目的の観光地に辿り着く間にも様々な観光地がある。観光する際に途中の観光地を見逃してしまってはもったいないので、出発地から目的の観光地まで行くまでどのような観光地に寄ることができるのかを自動で探すシステムを考えた。本作品では、簡易的なコースを作成し、ライントレースでコースを走る車にて、シミュレーションしている。デモでは、コースの途中に観光地として、色付けしており、カラーセンサーで色を読み取ることで観光地を認識させて、ゴールした段階でそれまでに通った観光地を Slack に通知するようにしている。