Web×IoT メイカーズチャレンジ 2019-20 in 鳥取 開催報告
学生や若手エンジニアを対象とした IoT システム開発のスキルアップイベント「Web×IoT メイカーズチャレンジ 2019-20 in 鳥取」が 2019 年 11 月 - 12 月にかけ、鳥取県鳥取市で開催された。参加者は Web 技術 (JavaScript、HTML) を用いたハードウェア (センサーやモーター) の制御などを 2 日間のハンズオン形式の講習会で実践的に学ぶ。その後準備期間を経て、短期間で集中的に作業を行う「ハッカソン」に取り組んだ。ハッカソンでは参加者は 9 チームに分かれ、アイデアを形にするべくチームで IoT デバイスの作品づくりに挑戦し、最優秀賞を競い合った。
ハンズオン講習会
2019 年 11 月 9 日 (土) - 10 日 (日) にかけ、Web×IoT メイカーズチャレンジ 2019-20 in 鳥取のハンズオン講習会が鳥取大学広報センターにて開催された。受講者数は 35 名で、小学生から社会人までと幅広い年代層からの参加があった。
本講習会では、12 月に開催するハッカソンに向けた作品制作の前提となる IoT 開発のスキル習得を目的としている。ハッカソンにおいて必要な基礎知識を学ぶ座学講習や実践に機器を動かして学ぶハンズオン講習の他に、鳥取県の課題について触れるアイデアワークショップやアイデアソン、ハッカソンのチームごとでの今後の話し合いを行った。
講習会初日の冒頭は、主催者を代表して総務省中国総合通信局情報通信部情報通信連携推進課長の小土井一洋氏による挨拶から始まり、座学講習に移った。
座学講習の講師は株式会社神戸デジタル・ラボ 取締役である村岡正和氏が担当された。Wi-Fi や LTE 等の IoT に欠かせない通信技術、電波の特性、電波法を中心とした法制度等について分かりやすい説明がされた。また、既に現代社会で導入されている IoT やこれからの IoT について、実際に現場に立っている経営者、エンジニア目線での解説が行われた。
続けて初日の午後から二日目の午前中にかけてハンズオン講習が行われた。ハンズオン講習の講師は Code & Arts より、西尾毅士氏が担当された。本講習では受講者一人ひとりに実習用の機材が配布され、CHIRIMEN for Raspberry Pi 3 を教材とし、実際にコーディングを行い様々なセンサーから値を取得しアクチュエータを制御した。CHIRIMEN for Raspberry Pi 3 は、"ラズパイ"として知られる名刺サイズの小型コンピューター Raspberry Pi 上に構築された IoT プログラミング環境である。CHIRIMEN Open Hardware コミュニティがオープンソースのプロジェクトとして開発しているもので、誰でも自由に利用することができる。
CHIRIMEN for Raspberry Pi 3 の大きな特徴として、Web 技術 (JavaScript, HTML) を用いてセンサーやアクチュエーターが制御できることが挙げられる。そのため、本講習ではパソコンは不要で、Raspberry Pi 3 にディスプレイやキーボードを接続するだけで実習環境を整えられる。チュートリアルドキュメントやサンプルコードも充実しており、プログラミングに初めて触れる受講者も苦戦しつつも楽しんで講習に取り組んでいた。
二日目の午後から「問題を逆手に取って IoT で鳥取を楽しくしよう!」と題してアイデアワークショップを行った。本ワークショップはハッカソンにおける各チームの作品テーマの検討、整理を目的としている。まず、鳥取県商工労働部産業振興課、大谷武彦氏より鳥取県の抱える地域課題、現状についての説明がなされた。その後鳥取大学工学部助教、三浦政司氏によりワークショップを行った。
ワークショップでは付箋を使ったアイデア出しやアイデアスケッチなどを行った。各々の意見を発表しやすいように様々な工夫がなされ、大谷氏から説明を受けた地域課題を軸に参加者からは多くの意見が発表された。
その後チームごとに今後の計画を立てた。どのような作品を作るのかの検討、チームでものづくりをする際の役割分担などについて話し合った。またハッカソンに向け遠隔地でも協力できるように、オンラインでの議論や作業を続けられるようチームで環境を整えた。
ハッカソン
2019 年 12 月 7 日 (土)、8 日 (日) の 2 日間、鳥取大学 鳥取キャンパス 広報センターを会場にハッカソンが開催された。ハンズオン講習会で実践を交えて学んだ知識をもとに、事前に各チームで話し合いを行い、全 7 チームがアイデアを形にするべく作品制作に挑戦した。最優秀賞には、ビニールハウスに積もった雪を検知し、炭と水を混ぜた液を撒くことでビニールハウスの破損を防ぐ作品「雪と墨」を制作したチーム G (Snow Inc.) が選ばれた。
ハッカソン初日のキックオフでは、Web×IoT メイカーズチャレンジ 鳥取運営委員会で主査を務める瀧田佐登子氏 (一般社団法人 WebDINO Japan 代表理事) より、「本イベントでは小学生から社会人までの参加者もメンターも、あらゆるメンバー全員が平等な立場にある。この 2 日間、メンター陣を使い倒すことで、ぜひとも自分たちのアイデアを形にしてほしい。」との激励の言葉が寄せられた。また、本ハッカソンでは同日程でハッカソンが開催される石川、徳島、鳥取の 3 会場をインターネット経由のビデオ会議で接続している。キックオフでは他会場との交流も行った。
どのチームも経験者、初心者、小学生から社会人と多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されていた。チームでのものづくりは初めてというメンバーが多かったが、コミュニケーションを取りながら各チームでものづくりに挑んだ。
本ハッカソンにおいては、座学講習で講師を務めた村岡氏、WebDINO Japan CTO の浅井智也氏、鳥取大学三浦助教をはじめ、現役エンジニアらのメンター陣が各チームの作品づくりをソフトウェア面とハードウェア面のサポートを担当した。ものづくりに取り組む中で衝突する様々な問題について、各チームがメンターからアドバイスを受けながら解決に向け取り組んでいた。
本ハッカソンではメンター以外にも様々な支援体制が整えられている。初日に 8 時間、2 日目に 4 時間制作に取り組める時間が用意されているが、いずれも長時間であるため参加者が自分たちのペースで取り組むことができる。どのように時間を使うかは各チームの自由であり、好きなタイミングで休憩を行うことができ、楽しみながら取り組めるようにお菓子や飲み物を常備している。また、各チームが考えたアイデアのプロトタイピングを制作するためにはハードウェアの工作が必要となり、コストがかかる。運営側が用意した材料だけでなく自分たちで選定した材料の使用も可能で、その際必要となった材料費を一定額まで補助する仕組みがある。
2 日目の午後より、各チームの成果発表および作品の審査が行われた。審査員は、慶應義塾大学環境情報学部教授 村井純氏、公益財団法人鳥取県産業振興機構知的所有権センター センター長兼知財ビジネスプロデューサー 山本明良氏、本イベント鳥取運営委員会 主査及び一般社団法人 WebDINO Japan 代表理事 瀧田佐登子氏の 3 氏が担当した。成果発表に先がけ、本事業主管課の総務省 国際戦略局通信規格課の松本企画官による挨拶が行われ、各チーム作品のアイデアの独創性、ユースケースの有用性、および無線の活用度などの観点から、デモンストレーションを交え実際の作品を見ながら審査を行った。
審査終了後には、表彰式と懇親会が開催された。最優秀作品には、チーム G (Snow Inc.) の作品「雪と墨」が選ばれた。最優秀賞受賞メンバーには総務省中国総合通信局より局長賞が授与され、本間祐次局長より表彰が行われた。また、全チーム作品の講評が審査員の村井氏、山本氏、瀧田氏から伝えられた。最後に、主催者を代表して、本間局長の挨拶と乾杯の発声で懇親会がスタートした。懇親会では参加者や運営メンバー、メンターが年齢やバックグランドを越えて、ハッカソンに取り組んだ感想等について共有していた。
参加チームおよび作品概要
Team A 農業復興委員会
作品名:声優ボイス×恋する植物 〜あなたも植物に恋してみませんか〜
農業の補助を目的としたデバイスである。農業従事者の減少や、従事者における若者の割合が少ないことに注目して、水やりに植物と会話できるような IoT システムデバイスから新しい面白さや楽しさを生み出そうとしている。湿度センサーで土の中の湿度を計測し、ラズパイから Bluetooth でアレクサに伝える。その結果を元にアレクサが会話の中で水の有無を決め、スマートプラグを経由してポンプの ON or OFF を決定する。
Team B
作品名:Simpider (しんぱいだー)
鳥取では少子高齢化が進んでおり、孤独死や放置児の問題を抱えている。見守りに重点を置いた作品を制作し、家族の心配や負担を軽減することを目的としている。Simpider は人感、温度、光センサーといった様々なセンサーから室内の状況を確認している。人がいるときに高温や低温を検知して照明と音声で警告する、光の有無を調べて睡眠時間を記録するなどの機能と、メールを使用した異常のお知らせ機能を備えている。また、このようなデバイスではプライバシーが問題となることがあるため、カメラを使わないことによってプライバシーに極力配慮するようにしている。
Team C 独身貴族
作品名:しゃべろうボット君 ~お年寄りと世界を繋げよう~
高齢者が楽しく健康に生活できるように補助するデバイスである。人感センサーでお年寄りの動きを記録し生存確認をし、温度センサーで部屋が高温もしくは低温になったときにエアコンの使用を促し命を守る。また距離センサーで外出回数を記録する。RSS を使うことで健康に生きるために必要な自治体からの情報や、地域のイベント情報をディスプレイに表示できる。
Team D D
作品名:IoT お片付け BOX
子育て王国鳥取としてアピールしている鳥取県で、お片付けを楽しくすることで育児を手助けする目的のデバイスである。作品の箱にはタイマーがついていて、子供自身が自分で遊ぶ時間を設定し、遊ぶ時間の管理ができるようになっている。また、箱に取り付けられているカメラで子供が遊んでいる様子などを親がSlackを通じて確認できるようにもなっている。職場など家から離れているときにも、子供がどうしているのかを確認できるため、親が安心できる。
Team E 星取大学科学部
作品名:Instargram ~より優れた観測地を求めて~
鳥取県では星取県として星の観測のしやすさ、美しさをアピールしている。より観測に適した場所の発見、観測の予定を組むことを手助けするデバイスである。光量センサー、温湿度気圧センサーを用いてデバイス周辺の照度・温度・湿度・気圧を測定することで、その観測地が現在星の観測に適しているかどうかの判断を行う。また、ネットワークから月齢の情報、現在地の天候状況を取得し、5 段階評価で観測地の評価を行い、より優れた天体観測地を利用者へ伝えることができる。
Team F u20
作品名:IoT ウォーターサーバー
高齢化に伴い、良質なケアを求める要介護者が増大し看護と共に事務処理も増大している。ケアワーカーの仕事の一つである、患者一人ひとりの水分摂取量や排泄量を記録する業務を自動化する目的を持っている。各介護施設利用者の目標水分摂取量と水消費量を自動で記録し、異常値がでた時にケアワーカーに通知する。温度センサーで取得した気温から目標水分摂取量を提示する機能、一定量の水 (500mL ~ 2L) からの水の減少量を計測する機能、水減少量が目標水分摂取量に満たない場合管理者に音声と光による警告が出る機能を備えている。
Team G Snow Inc.
作品名:雪と墨 【最優秀賞受賞作品】
鳥取をはじめ、積雪が発生しやすい地域では積雪によるビニールハウスの損壊が問題となっている。ビニールハウスは高額であり、農業従事者にとって重要な設備である。本デバイスはビニールハウスを積雪による損壊から保護することを目的としている。センサーを用いてビニールハウスの屋根に積もった雪を検出、また、インターネットから天気情報と屋根に積もる雪の量で雪が屋根に与える影響を判断する。昼間に雪がつもり過ぎだとと検出された場合、屋根上でのシステムから墨と水を混ぜた液体が散布される。液体中の墨が太陽熱を吸収して雪を溶かし、屋根の荷重を減らすことでビニールハウスを保護する。